私たちの研究
がんとフェロトーシス
フェロトーシスとは、酸化ストレスによって脂質の過酸化が蓄積し、誘導される鉄依存性の細胞死メカニズムです。従来の抗がん剤とはまったく異なるメカニズムで起きる細胞死であるため、既存治療に抵抗性を示す腫瘍にも有効な可能性があります。
がん細胞は旺盛な増殖と代謝の過程で、正常細胞に比べて高い酸化ストレスにさらされています。生き延びるために、がん細胞は抗酸化システムを強化し、フェロトーシスから自分自身を守っています。さらに近年、この抗酸化システムの強化が治療抵抗性の獲得にも関与することが示唆されています。
ここで重要なのは、フェロトーシスは単に「活性酸素を増やせば起きる」わけではないという点です。がん細胞はxCT–GSH–GPX4などの複数の経路からなる防御網(抗酸化システム)を持っており、これらを突破する戦略的なアプローチが必要となります。
フェロトーシス制御を標的とするFerroptoCureの開発戦略
FerroptoCureは、独自の研究からがん細胞における抗酸化システムの独自の分子メカニズムを解明しました*1, 2。この知見に基づき、がん細胞が依存する抗酸化システムの主要な2分子―xCTとALDH―を同時に阻害する「フェロトーシス合成致死」を用いた、経口投与可能なFirst-in-class低分子化合物を開発しています。このメカニズムはアポトーシスや免疫依存性の細胞傷害とは独立した経路であり、複数のがん種で生存に必須のメカニズムを標的にすることができます。
1)xCT–GSH経路
治療抵抗性のがん細胞では、xCT(SLC7A11)というトランスポーターを介してシスチンを大量に取り込み、グルタチオン(GSH)という強力な抗酸化物質を産生しています。GSHは活性酸素を直接中和するだけでなく、GPX4という酵素を通じて脂質の酸化的破綻も防いでいます。この経路は、慢性的な強い酸化ストレス環境下で生き残るがん細胞にとって中心的な生存機構です。
2)ALDH経路
脂質の酸化が進むと、4-HNEやMDAといった有毒な脂質アルデヒドが生成されます。がん細胞はALDH(アルデヒド脱水素酵素)を使ってこれらを解毒し、ダメージを回避しています。

FerroptoCureは日本を拠点とし、AMED「創薬エコシステム事業」採択を含む研究基盤のもとで、フェロトーシス創薬の実用化を推進しています。
*1: Okazaki et al., Oncotarget 2018, DOI: 10.18632/oncotarget.26112
*2: Otsuki et al., Cancer Science 2020, DOI: 10.1111/cas.14224
